原材料について
馬
こしが強く、楷書や学童向けに適した毛質
馬は数ある筆の材質の中でも最もポピュラーで、ほぼ全身の毛が筆づくりに適しています。柔らかな胴毛は筆のもっとも外側の部分である衣毛(ころもげ)使用されることが多く、その他の部位は弾力と強いこしが特徴です。そのため書道用の筆や日本画、水彩画、油彩画、化粧筆等に広く用いられています。
- 尾毛のうち、胴体から約20cmまでの部分は特に「天尾(あまお)」と呼びます。
- こしが強く、耐久性に優れているため学童用の筆に多く用いられています。馬毛のみでは毛先のまとまりに欠けるため、他の動物の毛と併せて使われることが多いのも特徴です。
- 胴毛の中の硬い部分は、染色用の差し刷毛や片羽刷毛に向いています。
- 化粧筆のブラシ&コームには馬のたてがみや尾毛が用いられています。
イタチ
弾力・まとまりに優れたしなやかな毛質
イタチは強いこしと弾力性、含みや耐久性に優れ、すっきりとした線を書くことができます。毛先がよくまとまるため、楷書や細字用として使われるほか、水彩画、油彩画などの細部の描写にも最適です。胴体の毛は毛皮として使用されるため、主に尾毛が筆の原料となります。
- 「セーブル」「ウィーゼル」等、さまざまな名称で呼ばれます。
- イタチの一種に「コリンスキー」があります。これは他のイタチ毛に比べ毛足が長く、バネがあり、含みが良く、耐久性にも優れた種類です。
- オスの尾毛は毛足が長く、優れたものとされています。
- 化粧筆にすると、こしの強さから発色が良くなります。リップブラシやシャドウブラシなどに用いられています。
狸・ラクーン
弾力のある毛質
狸は比較的弾力のある毛です。こしを持たせるために、他の原毛と混毛して用いられることもあります。毛先がまっすぐでよくそろうため、面相筆によく合います。
書道用の他、絵画用の筆にも用いられており、薄い絵の具を塗る時や、細部の描写に用いられます。
- 根元が細く、毛先が太いため、筆にすると穂先に向かってふっくらとした形状になります。墨や絵の具を含ませると、ふっくらとした形がさらに際立ちます。
- 先が良くまとまることから、楷書や細字、絵画の細部描写に用いられます。
- 顔まわりや胴部分の毛を使用します。
- 中でも背中の毛は「黒狸」、腹の毛は「白狸」と呼ばれます。
- 化粧筆では、こしの強さをいかしてアイブロウブラシに用いられます。
猫
柔らかくしなやかな毛質
猫の毛は柔らかで、抜群のしなやかさを誇ります。毛先が丸いことや、含みがとても良く、墨や絵の具を含ませたときに、それが玉になって落ちることから「玉毛(たまげ)」と呼ばれることも。毛先のまとまりも良く、細字用の筆に多く用いられ、また化粧筆としても使われます。
- まとまりの良さから書道用の細字、かな用の筆の他に、蒔絵筆にも用いられます。
- 原料として用いられるのは、背筋の部分です。
- しなやかさ故に、化粧筆にすると指先で化粧をするような、繊細なタッチができあがります。
- 耐久性があります。粉含みはやや劣りますので、少しずつ色をつけたい細部に用いるアイシャドウブラシなどに適しています。
鹿
硬い毛質
鹿の毛は、原毛の中では最も硬い部類に入ると言われています。鹿の毛のみで筆を作ることはまれです。したがって筆のこしを強くする目的で、他の毛と混毛して用いられることがほとんどです。
- 腰毛以外には、染色の引き染め用の刷毛や、刷り込み刷毛などに用いられます。
- 鹿の毛のみで筆を作ると、勢いのある線や、渇筆に適した筆となります。かすれを生かした書や画の作品作りに適した筆と言えるでしょう。
- 東南アジアに生息する「サンバー(山馬)」と呼ばれる鹿がおり、そのオスのたてがみは大筆の原料として用いられます。現在はワシントン条約で捕獲禁止とされているため、それ以前に採取された原毛のみが使われて、その筆はとても貴重です。
山羊(やぎ)
やわらかな表現に適した毛質
「羊毛」と呼ばれる毛は、中国産のヤギで、ヒツジとは異なります。羊毛の筆からはやわらかな線質が生まれますが、使い方によってさまざまな表現が可能です。柔らかで含みがよく、また耐久性に優れるため書道用のほか、水彩画や日本画、水墨画、化粧筆などに用いられています。
- 上質の羊毛筆は毛質が良く、毛先が透明に近いアメ色をしています。
- 羊毛の中でも羊尾(ようび)と呼ばれる尾毛は弾力に富んでいます。
- 化粧筆に使われる場合、部位によってさまざまな肌触りのものができます。