清朝の書家、鄧石如の書について
臨 鄧石如隷書「世慮全消」
みなさんが篆隷書といわれて、連想する作品はどのようなものでしょうか。高校芸術科書道「書道Ⅰ」の教科書では、「泰山刻石」や「曹全碑」などが紹介されることが多いですが、今回取り上げるのは、篆隷書や篆刻をよくした清朝の書家、鄧石如(1743~1805)の書についてです。
鄧石如は、日常で使用する機会が少なくなった書体に着目し、古碑の臨模を通して独自の書法を確立しました。特に篆書を書く際には、筆の穂先を剪る、または焼いた剪筆や軟毫を用いていたとされ、筆に強いこだわりがあったことが窺えます。
臨 鄧石如張載東銘篇
年代ごとに作品を鑑賞してみると、字姿はもちろんのこと用筆法や運筆法にも大きく変化があることがわかります。温和な書に筆力が加わり、年を追って力強く生命力の感じられる線になっていきます。このほか、一字または作品全体でバランスをとるように計算された結構法などが鄧石如の書の魅力です。そしてこの書法は、包世臣(1775~1855)や呉煕載(1799~1870)など後代の書人にも大きな影響を与えました。
今日の私たちは、様々な媒体で肉筆を手軽に鑑賞することができますので、古人がどのような筆を持ち、動かすことで生まれた表現であったかを考えながら是非書いてみてください。