「形」に注目する。「文字」にとらわれない。
書の作品鑑賞は、しばしば敬遠されてしまいます。
その理由として多く聞かれるのは、「何と書いてあるかわからないし、読めないから」というもの。
書作品のほとんどは文字が書かれているので、読みたくなるのは仕方ないことでしょう。
しかし、作品中に書かれた文字を読めるかどうかということは、書の作品鑑賞における関門ではないのです。
明治時代以降、私たちの生活の中からは着実に「筆」というものは消えつつあり、もはや文字は「書く」から「打つ」もの「スワイプする」ものになりつつあります。
さらに、言葉の使い方や使われる文字の種類も異なることで、書を「読む」という観点から味わおうとするとき、その難しさは格段に上がっています。
下に並べた二つの文字を見てみましょう。
どちらも「筆」という文字ですが、「どこか雰囲気が違うぞ」ということは、直感的に感じられたのではないでしょうか。
その理由は、「形」が違うから。線の長さや太さ、角度などの違いが見た目のイメージを変えているのです。
同じ言葉なのに違う雰囲気を受けるのは、言葉の意味ではなく、文字の形そのものが固有の力を持っているためです。
たとえ読めない文字だったとしても、「形」に注目することで書の作品は楽しむことができるのです。
平安時代に書かれた作品で見てみましょう。
「伝 坊門局筆 惟茂弁集切」
筆の里工房 蔵
左上から斜め右下に向かって少し間隔を置きながら黒く濃い部分があります。さらに、5か所ほど細長い線が右下へ流れているところも見えます。そうするとなんだか、この一枚の作品の中で、左から右へ風が吹いたように揺らぎを感じることができます。
例えばそれは、しだれ柳の姿とも重なっているように思えます。
このように、書の作品を「文字」にとらわれずに見ることで新たな発見や楽しみが生まれてくるかもしれません。